残された認知機能を活用する「リアリティ・オリエンテーション」について、体験談をご紹介します。

 

皆さん、見当識障害という言葉をご存知でしょうか。

見当識障害とは自分と相手の関係、日時や場所などがわからなくなることをいいます。

 

最近、80代の母Aさんにこの見当識障害がみられるようになった娘のBさんは、通院している病院のすすめもあり、症状を改善するためのリハビリテーションである「リアリティ・オリエンテーション」を実践することにしました。

 

リアリティ・オリエンテーションとは、患者さんが会話のなかで意図的に認知機能を使えるよう、周りの人が意図的に促し、患者さんの現実認識を高め、残された認知機能を維持、または向上させる方法です。

 

家庭では、Bさんが日常生活のなかで

「今日は何日?」

「この花はいつの季節に咲くの?」

などの質問をしたり、食事中に

「この野菜の旬はいつ?」

「この魚が旬だから今の季節は?」

などと、さりげなく日時や場所、季節などの情報を入れた会話を母Aさんに行いました。

 

また通院先の病院ではクラスルームリアリティ・オリエンテーションが行われました。

クラスルームリアリティ・オリエンテーションでは、認知症の人が少人数で集まってグループをつくり、決められたプログラムを専門家が進行していきます。

 

かかりつけの医療機関のスタッフの方が

 

「今の季節は?」

「今日は何月何日何曜日ですか?」

と質問したり、

「今日は敬老の日です」

と、その日を特定な日として特徴付ける話題を出し、現在の基本的な情報として、季節、日付、時間、場所、名前、人物を会話の中に意図的に出していくのです。

 

会話を聞きながら、意図的に挿入された季節、日付、時間、場所、名前、人物に意識を向けさせるようにして、失いかけた見当識の能力を刺激したり、参加者同士で自己紹介や他の人を紹介することで、母Aさんの脳をたくさん刺激することができました。

 

また、24時間リアリティ・オリエンテーションでは、いつもお世話になっている介護スタッフの方が日常生活のコミュニケーションのなかでAさんに

「今日は何日か」

「ここはどこなのか」

「自分の名前は」

といったことを認識させる機会を自然な会話で繰り返し提供してくれました。

 

また、Bさんも着替えや食事を介助するなかで、何かをしながら

「今、何時?」

「今日は何曜日?」

などと、同じような質問を意図的に何度も繰り返し、時間、日時、季節や周囲と自分の関係性が理解できるよう仕向けていったのです。

 

これらをしばらく続けていると、心身にほどよい刺激を与えられたAさんは、生きている実感がわいてきたように表情も明るくなり、少し自信を取り戻すことができたそうです。